神楽坂サイエンスアカデミー2017の紹介
こんにちは。IIJ 青戸です。
以前当ブログで、改正FIT法のために保守・点検が必要になるので発電量のモニタリングシステムの導入が増えているという記事が掲載されました。
(改正FIT法とスマートメーター)
今までの記事とは少し趣旨が違いますが、発電量のモニタリングを理科教育に活用したイベント「神楽坂サイエンスアカデミー2017」 に開発者兼 TA (Teaching Assistant) として参加していますので、今回はその概要や、風車の制作実習風景などを紹介いたします。
神楽坂サイエンスアカデミーとは
神楽坂サイエンスアカデミー(以下、KSA)は、去年から東京理科大学 川村研究室と IIJ が共同で開催している、理科に興味のある高校生、中学生の育成を目的としたイベントで、風力発電を題材にしており、同じ学校で3~4名のチームを作り、約3ヶ月の研究期間で発電機と風車の制作・改良をしてもらうという企画です。
共催している川村研究室は、 「サイエンスコミュニケーション」 と 「自然エネルギー」 を研究テーマとしており、今回のような理科教育を専門で研究されています。研究室の学生もほんとんどが将来理科教師を目指しており、ゼミとして、週一で物理の授業を開いており、学生が主体的に理科指導や実験指導を行っています。
色砂振り子の物理授業風景
写真は川村研究室 HP の研究室ガイダンスから引用 (http://www.rs.kagu.tus.ac.jp/~elegance/policy.html)
今回のイベントでは、発電機にセンサーを取り付け、リアルタイムに発電量や風速を計測してインターネット経由でモニタリングサーバーに送信しています。参加者にはモニタリングサーバーに表示されるデータを基にして、以下のようなサイクルを繰り返してもらい、科学的なものの見方・考え方を学んでいただきます。
- 発電機、風車の改良ポイントを検討
- 実際に改良を実施
- 過去データとの比較して、どのくらい改善・改悪したかを調べて、その原因を調査
- 調査結果を元にして、更に発電機、風車の改良ポイントを検討
なぜ理科教育と IoT ?
ワンデイ・イベントだとどうしても時間が足りないため、参加者は発電機と風車を説明書通りに作って終わり、、という流れになってしまい、自分達で改良点を考えて実際に試すところまではできません。KSAでは、研究期間を約3ヶ月という長期間に設定しているので、発電機や風車の理解を深めて、改良に力を入れることができます。
また週1でレポートを提出してもらい、川村研の学生さんや私たちがフィードバックを返すため、他の参加型イベントと比べても専門的で、何度もトライ&エラーを繰り返せるようになっていますので、大学の研究にかなり近いスタイルになっています。
このときに改良したことを客観的な視点で示すためには、発電量の計測が非常に重要です。IoTを活用せずに発電量を計測しようとすると、以下のような問題があります。
- 発電量を計測するために、人が発電機の近くにいる必要がある
- 計測したデータを逐次記録する必要がある
- 改良前と後を比較するために、過去の計測データと比較する必要がある
- 風力発電のため風速による影響も考えて数分の単位で計測し続ける必要がある
発電機と風車の改良は6~8月の間で実施していただくので、炎天下の中、発電量の計測をするとなると全く楽しくありません。
IoTを活用しない楽しくない風景
その為、KSAでは、発電機に電力センサーと風センサーを取り付けて、自動でセンサデータをインターネット上にあるモニタリングサーバーに送信することで、計測の自動化を実現しています。モニタリングサーバーでは計測データの可視化はもちろん、過去データとの比較も簡単に行うことができます。
モニタリングサーバーのサンプル画面(上が風速、下が電流と電圧を表示)
モニタリングシステムの構成
今回構築したモニタリングシステムと各パーツは以下のようになります。
パーツ名称 | 詳細 |
---|---|
電力センサー | INA226 |
風センサー |
KOA製風センサー(試作品) |
マイコン | TWE-Lite DIP |
無線ネットワーク | ZigBee |
IoTゲートウェイ | Raspberry Pi3 MONOSTICK モバイルルータ |
グラフサーバ | Grafana InfluxDB |
今回、モニタリングシステムを設計するにあたり目標にしたのが、
「センサーとマイコンはモバイルバッテリーで動かす」
「そして最低でも1週間稼働させる」
ということです。
そのために、マイコンは低消費電力なTWE-Liteを使用して、モバイルルバッテリーを20000mAhぐらいのものを使うことで、1週間とはいきませんでしたが、5〜6日程度稼働させることができました。また最終的には、マイコンやセンサー類は雨風を防ぐためにプラスチックケースに入れて設置してもらいます。これで、参加者には風車の設置場所に困ることなく、改良に打ち込んでもらえるはずです。
左のプラスチックケースが風センサー、右のプラスチックケースがマイコンとモバイルバッテリー
その他モニタリングシステムの詳細や、マイコンやモバイルバッテリーの苦労話など、開発中の面白い話は後日の記事でご紹介したいと思います。
いざ、制作実習へ
6/11(日) に各チームが理科大に集まり、開会式と講義、発電機の制作実習を行いました。
発電機は専門的な知識がなくても作れるようにキット化されており、ほとんどのパーツは3Dプリンタで出力しています。ちなみに、発電機1つ分のキットを出力するのに30時間ぐらいかかります。
発電機のパーツを 3D プリンタで出力中
制作実習では発電機に使うコイル巻きが難関で、コイル1個につき250回、エナメル線を巻く必要があります。
コイルは全部で18個用意する必要がありますが、コイルの巻き方一つで発電効率にかなり影響が出るため、ムラが出ないように丁寧に巻いていく必要があります。
コイル巻きの風景です。人数の少ないチームがいたので私も3,4個コイルを巻きを手伝いました。
ただ、発電機のパーツを 3D プリンタで出力しているため、どうしても精度の問題が発生してしまい、
パーツをあらかじめヤスリ等で削ってやる必要があったり、パーツをはめ込む際にはトンカチで叩く必要があったりします。
巻いたコイルを発電機にはめ込んでいる風景です。大きさが合わず 18個すべてはめ込むのが大変でした。
このあと、回転軸部分にネオジウム磁石を埋め込みます。
この回転軸の先に風車の羽を装着することで、磁石が回転するようになり交流発電を行うという仕組みです。
ただ、今回は時間の都合で風車の羽部分の制作は行わず、後日学校へ帰った後に制作してもらうことにしました。
そのため後は、整流回路、センサ等をつけて、動作確認を行って終了です。
発電機と各センサー、マイコンを接続して完成です
その後の流れ
このあとの研究期間は、風車の羽部分を作成して、その後は発電機や風車の羽などに改良を加えて、発電効率の改善に取り組んでもらいます。
各チームには研究費を渡ししており、このお金は、風車の材料を買ったり、理科大に設置してある3Dプリンタで新しいパーツを作成する材料費にしてもらいます。
その後、7月24日に中間報告会を実施、9月23日に最終報告会の予定です。
また、研究期間中 の TA とのコミュニケーションツールとしてメッセージのやりとりにdirect、レポートの作成にConfluenceを使用することにしました。
direct を活用したコミュニケーション
今回はコミュニケーションツールとして、高校生たちにも親しみやすいインターフェースを持っており、
各種スマートフォンのネイティブアプリとして動く direct を使用しました。
(direct については本ブログでも何回か取り上げております。(Bルート x メッセンジャー (1)) などを参照ください。)
directを選択したのは大正解で、メッセージだけではなく、写真やファイルもかんたんにやり取りできるため、私達も状況把握やフォローアップがしやすく、
かなり参加者と密になってコミュニケーションをすることができています。
以下の学生とのやり取りの一部を抜粋したものです。
コイル部品の改良データ(なんと3Dデータ形式!!) を送り、その完成形を写真で確認してもらっている様子です。
トラブルが発生した際の写真を送ってくれるので、フォローがしやすく非常に助かります。
スタンプ等を交えた、ライトなトークもし易いのもdirectならではの利点です。
さいごに
今回は理科大川村研究室と共催した神楽坂サイエンスアカデミーのイベント概要と、制作実習の風景などを紹介しました。
イベントで使用したモニタリングシステムの詳細や開発時の苦労話などは、後日別記事として掲載したいと思いますので楽しみにしていてください。
また、随時イベントの模様などは以下のHPで更新していきますので、本ブログと一緒にウォッチしていただけると幸いです。
未定ですが神楽坂サイエンスアカデミー2018が開催する際には、本ブログでも掲載しますので、その際はお子さんの参加をお待ちしております。
非常に残念ですが大人チームの参加はできませんのであしからず。