スマートメーターって何?
はじめまして。
私は、スマートメーターを活用したシステムを開発している、岩永といいます。
今、日本中の電力メーターがスマートメーターに交換されているまっ最中です。
みなさんのご自宅の電力メーターもスマートメーターになっていくことでしょう。
私はいち早く交換を申し込み、2015年9月に交換してもらいました。
ところで、「スマートな」メーターとは、いったい何者なのでしょうか。
この記事では、日本のスマート電力メーターについて、技術者の視点で解説します。
- なぜ、日本中の電力メーターが「スマートメーター」に交換されているの?
- 日本のスマートメーターは、海外のものとは一味違う。日本のスマートメーターでは、どんなことができるのか?
なぜ、電力メーターが「スマートメーター」に交換されているの?
2016年の4月に「電力小売」が全面自由化されました。
私たち一般家庭でも、電気をどこから購入するのかを選べるようになり、歴史的な変化と言えます。
電気を売る人は、電気料金を計算するために「電気がどれだけ使われたのか」を知る必要があります。
消費者のライフスタイルに合わせた柔軟な料金メニューを提供するためには、従来の 1 ヶ月に 1 回の検針では不十分です。
更に、電力逼迫時に節電するとキャッシュバックするモデルも想定されており、日本では 30 分ごとの検針が要求されています。
この検針を人員増強でカバーするのは非現実的です。
したがって、人がメーターの設置場所まで足を運ぶことなく、遠隔から検針するための仕組みが必要になります。
この遠隔検針を実現するため、メーターに通信機能を搭載したものがスマートメーターです。
通信業界の人は、通信をすることを「喋る」と表現することがありますが、スマートメーターはまさに「喋れるメーター」と言えるでしょう。
日本のスマートメーターで、どんなことができるの?
欧米では、日本より先に電力小売が自由化されていて、既にスマートメーターが普及しています。
しかし、日本のスマートメーターには、海外のスマートメーターには無い魅力を備えています。
それは、私たち電気の消費者もスマートメーターから直接データを取得できることです。
では、データを取得するには、どうすればいいのでしょうか。
通信媒体
スマート電力メーターは、無線または有線のいずれかで通信ができます。
無線:Wi-SUN (ワイ サン)
Wi-SUN とは、Wireless Smart Utility Network の略称で、920MHz 帯の電波を用います。
障害物があっても電波が届きやすいので、データ収集機器を屋内に設置しても、屋外にあるメーターと通信できます。
また、Wi-SUN 自身が単位時間あたりの通信量規制を設けているため、Wi-SUN ノードが密集していても安定して通信ができるように設計されています。
有線:G3-PLC (ジースリー ピーエルシー)
PLC は Power Line Communicator の略で、なんと、宅内の電源コンセントを使ってメーターと通信します。
スマートメーターとの信号は、分電盤を経由してやり取りします。
しかしながら、冷蔵庫や充電器などが発生させるノイズに弱いため、分電盤に近いコンセントを使うことが推奨されています。
また、ノイズフィルターや雷ガード機能を搭載した電源タップを経由すると、通信が難しいようです。
自宅のスマートメーターは、Wi-SUN 方式と G3-PLC 方式のどちらになるの?
日本の全ての電力事業者が、主方式を Wi-SUN、補助方式を G3-PLC に選定しています。(*1)
なので、基本的に Wi-SUN 方式となります。
もし、電波が届かない等の理由で通信できなかった場合は G3-PLC の通信モジュールに交換する、というのが現在の一般的なフローのようです。
(*1) JSCA スマートハウス・ビル標準・事業促進委員会の「HEMS – スマートメーター B ルート (低圧電力メーター) 運用ガイドライン」参照
通信フォーマット
「電力データが欲しい」というリクエストやそのレスポンスのフォーマットは、ECHONET Lite (エコーネット ライト) という仕様に従います (*2)。
データを「取得」したり「指定した値に上書き」するといったリクエストができます。
ECHONET Lite 仕様書では、TCP と UDP のどちらを用いるかを規定しないと記載されていますが、私は今まで TCP で実装されている機器を見たことがありません。
スマート電力メーターと通信するときは、UDP を用います。
また、電気の消費データはプライバシーに関わるデリケートな情報なので、不特定多数に向けて晒されてはいけません。
このため、メーター 1 台ごとに異なる ID とパスワードが設定されています。
この認証やセッション管理を行うために、PANA (RFC 5191) というプロトコルが使用されています。
(*2) ECHONET Lite の仕様は、ECHONET コンソーシアムで公開されています。
どんなデータが取れるの?
電気料金の計算に使われるデータ以外にも、電気に関わる詳細な情報を取得できます。
代表的なデータをご紹介します。
積算電力量
電力メーターに表示されている数字は、この積算電力量です。
スマートメーターになると、太陽光発電などで電力事業者に売った電力量まで知ることができます。
電気料金の計算に使われるのは、「定時」積算電力量と呼ばれるデータです。
定時は 00:00 を起点に、きっちり 30 分間隔で定められていて、
定時積算電力量とは、00:00, 00:30, 01:00, … , 23:30 の時点の積算電力量を意味します。
例えば 00:00 から 06:00 までに消費した電力量を計算するためには、積算量なので両者を引き算するだけで算出できます。
豆知識ですが、スマートメーターは、過去の定時積算電力量を保持しているので、後から値を再取得することができます。
このおかげで、一時的にデータを取得できない状態 (電波強度低下やデータ収集機器のファームウェア更新など) があったとしても、リカバリ可能です。
履歴の保持期間はメーターによって異なりますが、これまでの実績を見た限りでは、どのメーターも最低 1 ヶ月分は保持しているようです。
瞬時電力
積算電力量の単位が Wh (ワット時) であることに対して、こちらは W (ワット) になります。
リアルタイムにどんどん値が変化するので、見ていて楽しいデータです。
このデータを眺めていれば、帰宅した時間や、起床/就寝の時間が推測できてしまいます。
特に、消費電力が大きいドライヤーや電子レンジなどの家電を使うと、即座に大きな値になります。
太陽光発電を導入している場合は注意が必要で、発電量が消費量より多いときはマイナスの値になります。
まとめ
スマート電力メーターが設置される経緯と、そのメーターでどんなことができるのかを解説しました。
スマート電力メーターは ECHONET Lite 対応機器の中でも「重点 8 機器」の 1 つに位置づけられていて、
まだまだ大きな可能性を秘めていると思います。
さて、次の投稿は 6/22(水) の予定です。
「スマート電力メーターの ECHONET Lite 仕様」を策定した人にバトンタッチします。お楽しみに。