海外のスマートメーター

日付:2017年03月02日 木曜日
テーマテクノロジー,業界動向

こんにちは。IIJ 慶野(けいの)です。

海外のスマートメーターの状況についてご関心はありますか?少し前になりますが、オランダのアムステルダムで開催されたメーター関係の展示会“メータリングヨーロッパ”に出展者の一員として参加したことがあります。

この展示会には、ヨーロッパだけではなく米国やアジアの各国のメーターメーカが出展しており、世界のメーターを実際に見ることができました。当時、ヨーロッパや米国ではスマートメーターの普及に着手しており、まだ目新しかったスマートメーターが数多く出品されていました。ただ、アフリカやアジアなど電力インフラ構築を急ぐ国々ではスマートメーターというより、とにかく安価なメーターを必要としており、日本もスマートメーターの普及はまだまだ先、といった雰囲気でした。

米国の状況

現在の状況を、米国カリフォルニア州を拠点としている電力とガスの提供会社、Pacific Gas & Electric社の知人に聞いてみました。彼によれば、カリフォルニア州のスマートメーターの普及は100%に達しており、現在はスマートメーターを活用したプロジェクトを立ち上げて、新たなサービスを数多く提供しているとのことでした。一般家庭用スマートメーターにはBルートを搭載しており、ZigBee無線によるSEPプロトコルを採用して電力の見える化や省エネに役立てています。また、AルートからBルートへのゲートウェイ機能を有していて、電力会社はこのゲートウェイ機能を使ってデマンドレスポンス等の需要家側の負荷制御サービスに活用しています。ただ、全てのスマートメーターがBルートを搭載しているのではない状況とのことです。特に、産業用メータ(高圧メータ)にはBルートは搭載していないとのことでした。

ヨーロッパの状況

ヨーロッパではスマートメーター導入をかなり以前から進めてきました。既にスマートメーターの普及を完了している国もいくつかあります。スマートメーターの展開拡大のきっかけになったのは、宅内に設置されたメーターを住人が自ら検針して申告するシステムを見直し、スマートメーターを導入したところ、電力会社の経営改善に大きく寄与できたからとの話が伝わっております。もちろん、導入理由はそれだけではないのでしょうが、日本より導入が進んでいる地域も多いようです。スマートメーターに光通信用の丸型コネクタがついており、需要家がそこから情報を取ることのできるBルートを搭載しているものも多いようです。

米国とヨーロッパでは、Bルートは電力会社が需要家に対して電力使用状況や金額情報を提供したり、またデマンドレスポンス等の需要家負荷の制御サービスを行うもので、あくまで電力会社がサービスを行うための通信ルートといえると思います。日本のスマートメーターBルートにはスマートメーターにAルートとBルート間のゲートウェイ機能がなく、あくまで需要家側によるデータ活用を目的としている点が、米国やヨーロッパのスマートメーターとの大きなコンセプトの相違になると思います。

米国やヨーロッパのスマートメーター

日本のスマートメーター

アジア各国の状況

アジア各国の電力会社は、ヨーロッパや米国、日本などの電力会社に若手エンジニアを派遣して、早くから先進的技術の習得を図ってきています。発電や送電などの電力インフラの構築を開始する時点で初めからスマートメーターの導入を図っている電力会社もあるようです。

日本と非常に近いエネルギー環境にある国が台湾です。エネルギーの殆どを海外からの輸入に頼り、また原子力発電から自然エネルギー活用への転換を図る政策を進めています。スマートメーターに関する実証試験も、欧米方式を中心に以前から取り組んでおりました。しかしながら、節電効果に対する疑問やAルートの電波到達性の課題があり、今まで本格的な拡大は行わなかったとのことです。

ここ数年ですが、台湾にてスマートグリッドに関する分野をリードされている方々との交流の中で、日本のスマートメーターBルートに関して説明する機会を何度か頂きました。特に、日本のスマートメーターBルートには、節電やエネルギーに関する用途だけでなく、新しいサービスや産業の創出につなげると言う他国にはないコンセプトがあることを説明し、スマートメーターの普及は節電のためだけではなく、新しいIoT産業の創出や社会サービス向上のために導入していくといった共通認識で進める必要があると伝えてきました。昨年ですが、台湾でも日本式Bルートのような機能を取り入れたスマートメーターの実証試験を行う検討に入ったとお聞きし、大変嬉しい気持ちになりました。日本コンセプトのスマートメーターBルートの可能性も、やがて実際に役立つものとして評価され、IoT産業の創出や社会サービス向上に役立つことを願っています。

まとめ

電灯は明治時代にガス灯が街路を照らしている時代に生まれました。電気が導入された当初は電気を検針する装置もなく、電力会社は電球を販売しその代金の中に電気使用料金を付加していました。今年、2017年4月にはガス販売自由化が始まります。EV自動車を購入すれば電気料金のポイントを付けるといった新しいサービスも生まれてきています。エネルギーを取り巻く市場環境は大きく変わろうとしています。

一方、世界に目を向ければ、スマートメーターの普及は世界中で進んできております。スマートメーターを使った正確でリアルタイム性を持ったエネルギーデータは、やがては大きな課題である地球温暖化の解決に突破口を見出す為の必要不可欠な基礎データになると考えております。

“改善は正確な現状把握から”との先輩エンジニアの教えが、今でも聞こえてまいります。