高圧スマートメーターのBルート

日付:2016年09月21日 水曜日
テーマテクノロジー

IIJ 師岡(もろおか)です。最近街中を歩いていると、スマートメーターを探すようになりました。軽く職業病を患っております。

今回は、このブログのタイトルにもなっているBルートの高圧スマートメーター版について書きます。

先日の記事、「高圧への取り組み、SA-W2がAIF(高圧SMA)認証取得しました」で書きましたが、高圧スマートメーターからEthernet接続でデータがとれるようになります。Ethernet接続がどのような仕様で、何が取れるようになるのかを低圧スマートメーターのBルートや、従来のパルスを使ったBルートと比較しつつ解説します。

  1. 低圧スマートメーターのBルートとの違い
  2. 高圧スマートメーターのBルートはどのようなデータを取れるのか

低圧スマートメーターのBルートとの違い

低圧スマートメーターと高圧スマートメーターは、どちらもBルートの通信ができます。それぞれのスマートメータが持つBルートの意味に違いはなく、スマートメーターと建物内に設置されたHEMS機器などを繋ぐための経路として定義されています。

しかし、Bルートの意味は同じでも、通信媒体や取得できるデータは違います。具体的に低圧と高圧のスマートメーターでは何が違うのでしょうか。

1. 通信媒体

  • 低圧スマートメーター
    • Wi-SUN接続(無線)かG3-PLC接続のどちらか1つ
  • 高圧スマートメーター
    • パルス接続とEthernet接続の2種類を持つ

低圧スマートメーターのBルートは、Wi-SUN接続でもG3-PLC接続でもメーターが提供するデータは同じです。

高圧スマートメーターのBルートは、パルス接続とEthernet接続2種類の通信媒体がありますが、取得できるデータはそれぞれ違います。詳細は、後述します。

2. 暗号化

  • 低圧スマートメーター
    • 通信内容をPANAで暗号化する
  • 高圧スマートメーター
    • 通信内容を暗号化しない

高圧スマートメーターのBルートでは、通信内容を暗号化しませんが、需要家がセキュリティを確保しなければならない条件と要件が「EMS-スマートメーターBルート(高圧スマート電力量メータ)運用ガイドライン」に記載されています。

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3. 通信プロトコル

  • 低圧スマートメーター
    • ECHONETLite 機器オブジェクト 低圧スマート電力量メータクラス
  • 高圧スマートメーター(Ethernet接続)
    • ECHONETLite 機器オブジェクト 高圧スマート電力量メータクラス
  • 高圧スマートメーター(パルス接続)
    • なし。パルス信号だけ。

低圧と高圧のスマートメーター(Ethernet接続)の通信プロトコルは、どちらもECHONET Liteを採用しています。
ECHONET Liteの仕様では、先に低圧スマートメーター用の仕様が定義されて実用化されました。高圧スマートメーターのECHONET Liteは、低圧スマートメーターを参考にして決められたようです。
各Bルートの仕様をまとめると以下のようになります。

Bルート種別 通信媒体 IP 暗号化 通信プロトコル ECHONET Lite 機器オブジェクト
低圧スマートメーター Wi-SUN またはG3-PLC IPv6 PANA ECHONET Lite 低圧スマート電力量メータクラス
高圧スマートメーター(Ethernet) Ethernet IPv6 なし ECHONET Lite 高圧スマート電力量メータクラス
高圧スマートメーター(パルス) パルス なし なし なし(パルス信号) なし

高圧スマートメーターのBルートはどのようなデータが取れるのか

高圧スマートメーターとEthernet接続ができる新しいBルートになると、どのようなデータが取れるようになるのでしょうか。

新しいBルートで取得できるデータがどれだけ増えたのかを説明するために、現行のBルートと比較します。

現行のBルート

従来から高圧需要家用の電力量メーターは、Bルートでパルスを検出し、使用電力量をリアルタイムで取得することができます。

高圧電力量メーターは電力量に比例して発生するパルス信号を需要家へ提供します。需要家は、このパルス信号を検出して使用電力量を取得するために、パルス検出器・パルス変換器・デマンドコントローラーを設置する必要がありました。

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新しいBルート

新しいBルートは、需要家(BEMS)に対して伝送データを渡すEthernet接続の経路が追加されます。接続するには、高圧スマートメーターと通信できるHEMS機器を1台用意すればOKです。パルス接続のように機材を何台も用意する必要ありません。但し、Bルートで接続するHEMS機器は、低圧スマートメーターと同様にAIF認証(SMA認証)の取得が必要です。

このEthernet接続の経路を利用してECHONET Liteで通信すると、高圧スマートメーターが持つデジタルな電力量データを取得できるようになります。取得したデジタルな電力量データは、高圧スマートメーターがAルートで電力会社へ通知する情報と差異ありません。しかも計量法の検定を受けた高圧スマートメーターから得られる正確なデジタルデータなので、電力会社と同じく取引証明にも使用できます。

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新しいBルートで取得できるデータ

従来のパルスで取得できる使用電力量に対して、Ethernet接続のBルートでは、下記のデータを取得することができます。

表の各列の意味

  • プロパティ名称 : データの種類。ECHONETLiteでは、データの種類をプロパティと呼称する。
  • EPC : プロパティを識別するためのユニークな番号。
  • アクセスルール : プロパティに対して、どういった操作ができるか。GETなら”データの取得”、SETなら “データの設定” ができる。
  • 搭載要否 : 高圧スマートメーターにプロパティの搭載が必須とされるかどうか。参考資料:EMS-スマートメーターBルート(高圧スマート電力量メータ)運用ガイドライン

① 機器オブジェクトスーパークラス

No. プロパティ名称 EPC アクセスルール 搭載要否
(◎:必須、〇:任意)
1 設置場所 0x81 Set / Get
2 規格Version情報 0x82 Get
3 異常発生状態 0x88 Get
4 メーカコード 0x8A Get
5 製造番号 0x8D Get
6 現在時刻設定 0x97 Get
7 現在年月日設定 0x98 Get
8 状変アナウンスプロパティマップ 0x9D Get
9 Setプロパティマップ 0x9E Get
10 Getプロパティマップ 0x9F Get

ECHONETLiteで通信できる全部の機器が共通で持つプロパティの一覧です。
高圧スマートメーターだけではなく、低圧スマートメーター、家庭用エアコン、証明機器なども同じプロパティを搭載しています。
このクラスでは、高圧スマートメーターなどの機器固有のプロパティはありません。

② 高圧スマート電力量メータクラス

No. プロパティ名称 EPC アクセスルール 搭載要否
(◎:必須、〇:任意)
1 動作状態 0x80 Get
2 係数 0xD3 Get
3 係数の倍率 0xD4 Get
4 確定日 0xE0 Get
5 積算履歴収集日 0xE1 Set / Get
6 積算有効電力量計測値 0xE2 Get
7 定時積算有効電力量計測値 0xE3 Get
8 力測積算有効電力量計測値 0xE4 Get
9 積算有効電力量有効桁数 0xE5 Get
10 積算有効電力量単位 0xE6 Get
11 積算有効電力量計測値履歴 0xE7 Get
12 月間最大需要電力 0xC1 Get
13 累積最大需要電力 0xC2 Get
14 定時需要電力(30分平均電力) 0xC3 Get
15 需要電力有効桁数 0xC4 Get
16 需要電力単位 0xC5 Get
17 需要電力計測値履歴 0xC6 Get
18 累積最大需要電力単位 0xC7 Get
19 力測積算無効電力量(遅れ)計測値 0xCA Get
20 定時力測積算無効電力量(遅れ)計測値 0xCB Get
21 力測積算無効電力量(遅れ)有効桁数 0xCC Get
22 力測積算無効電力量(遅れ)単位 0xCD Get
23 力測積算無効電力量(遅れ)計測値履歴 0xCE Get

高圧スマートメーター向けのプロパティ一覧です。なんと最大で23種類のデータが取れます!!
パルスで取得できていた使用電力量は、積算有効電力量計測値として、任意のタイミングで取得できるようになります。
更に、高圧スマートメーターが持っている過去データとして、積算有効電力量計測値履歴や、需要電力計測値履歴も取得できるようになります。もしHEMS機器の電源が一時的に落ちて、データが欠損したとしても、高圧スマートメーターが記録していた値をいつでも取得可能です。
また、メーター固有で変る電力単位、係数、係数の倍率なども取得できるので、電力量を動的に算出することができるようになります。

少し注意が必要なのが、全ての高圧スマートメーターが、このクラスの全種類のプロパティを搭載しているわけではありません。力測関連のプロパティは、全て搭載が任意になっています。
搭載が必須のプロパティは、全ての高圧スマートメーターに搭載することが義務付けられています。しかしその一方で任意のプロパティは、電力会社が高圧スマートメーターに搭載させるかどうかを決めています。
高圧スマートメーターが搭載しているプロパティの情報は公開されていませんので、設置された高圧スマートメーターとBルートで接続するまで、任意プロパティの搭載状況は、わからないというのが現状です。
A社製の高圧スマートメーターは搭載しているのに、B社製の高圧スマートメーターには搭載していないということもあるかもしれません。(低圧スマートメーターでは、このようなことがありました、、、、。)

まとめ

高圧スマートメーターのBルートでEthernet接続できるようになりました。この新しくなったBルートを使うと以下のようなことができるようになります。

  • 最大23個の高圧スマートメーターのデータがリアルタイムで取得できる
  • 電力会社が持つ正確な電力量情報を取得できる
  • 過去の電力量(積算電力量、デマンド値)を取得できる
  • 電力量を動的に算出できる

従来のパルスを使ったBルートでは、使用電力量(デマンド値)を知るためにパルス検出器・パルス変換器・デマンドコントローラなど多くの機材を設置する必要がありましたが、新しいBルートのEthernet接続は、SA-W2を設置すれば完了です。低コストで容易に導入できると考えています。もしご興味があれば是非お問い合わせください。